私の区分所有する部屋の床下配管から漏水し、下階の部屋に被害を与えました。私の前の所有者が床の修理をした時、工事業者が誤って床下配管に傷をつけたことが原因でした。工事業者を訴えて修理費用を払わせようと思うのですが、管理組合からは保険を適用させるため、示談書を作成するように言われました。示談に応じることは私に非があると認めることとなるので納得できません。
民法第709条には「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者」は、それによって生じた損害を負担しなければならないと規定されています。故意とは、自己の行為により第三者の権利を侵害することを知りながら、あえて行為に出る意思をいい、過失とは第三者の権利侵害の生ずることを認識すべきであったのに、これを認識せず行為をなしたという注意義務違反のことをいいます。
本問のケースでは、前所有者の床の工事が原因であったことは知る由もなく、したがって過失はなく一般的不法行為責任は負いません。しかし、それでは被害者の救済が不十分となります。そこで、民法第717条第1項には、土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があったために損害が生じた場合、第一次的にはその占有者が、そして占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をなしたことを証明した時は、その所有者が賠償義務を負担するとあります(工作物責任)。この規定により、本問のケースでは占有者である現区分所有者が、他人の加害行為であるにもかかわらず賠償義務を負担することとなります。
また、示談に応じるのは納得いかないとのことですが、この示談書は保険を適用させるのに手続上必要なもので、事実関係を明白にすればよいのです。この示談により社会的非難を受けたりといったことはありません。さらに保険会社は求償権という権利をもっています。この権利は、他人の加害行為による事故に保険金を支払う場合、保険会社はお金を払って泣き寝入りする訳ではなく、真に責任を負うべきものを訴え賠償を求めることができるというものです。本問のケースでは金額にもよりますが、保険会社より工事業者に賠償を求めることになると思われます。
編集/合人社計画研究所法務室 監修/桂・本田法律事務所 本田兆司弁護士
1996年4月掲載