分譲マンションの802号室の賃借人であった者ですが、自宅を離れている間に使用していた乾燥機がショートして火災が発生し、住んでいた802号室と隣の801号室を焼失してしまいました。この場合、私の損害賠償範囲はどこまであるのでしょうか。
失火による被害者に対する損害賠償義務ですが、これは1899年に制定された『失火の責任に関する法律』に明確に定められています。制定当時は、木造家屋が多く、家が建てこんでいる住宅環境であったため、延焼範囲が広がりやすく失火者の損害賠償能力をはるかに超えてしまうために、失火者の救済保護を目的としてこの法律が制定されました。
この法律によると、「民法第709条(不法行為)の規定は失火の場合には適用せず。ただし、失火者に重過失あるときはこの限りにあらず」と規定し、通常の過失による場合には損害賠償責任はなく、重過失がある場合に限り延焼した被害者に損害賠償することになります。重過失とは「わずかな注意さえすれば、簡単に違法有害な結果を予見できたのに漫然と事態を見過ごした場合」のことをいい、本件の場合は簡単に結果を予見し難く、漫然と事態を見過ごした訳でもないですから、重過失があったと認められず、一般的には延焼については(801号室については)損害を賠償する義務はないといえるでしょう。
しかし、賃貸借契約を締結している場合で、賃貸人(家主)に対して失火による被害を与えた場合は『失火の責任に関する法律』が適用されませんので、賃貸人である802号室の所有者に対する損害を賠償しなければなりません。これは賃借人が賃貸人に対し賃貸借契約上負っている原状回復義務・善管注意義務が果たせなくなり、賃貸借契約の債務不履行になってしまうからです。よって、たとえ失火の原因が重過失によるものでなくても、802号室の所有者に対して損害賠償責任を負わざるをえないといえます。
編集/合人社計画研究所法務室 監修/桂・本田法律事務所 本田兆司弁護士
2003年10月掲載